エビデンス集 見本 01 自治体の業務
期限までに払ってもらう:
督促と通知の文面
要点
- 期限を過ぎた人に通知を送ること自体に,大きな効果があります.文面の工夫で上乗せできるのは,多くの場合数ポイントです.
- 上乗せとして多くの研究で効いているのは,「払わないと何が起きるか」を具体的に書くことです.ただし,強制執行を予告したチラシで納付がかえって下がった町もあります.「多くの人は払っています」という一文は,効いた研究と効かなかった研究に分かれます.
- 送る時期を早めると,払われるのが早くなります.最終的に払う人の割合は変わらなかったという結果もあります.
- 長く滞納している人や,滞納額が大きい人には,どの文面も効きにくいようです.
70本あまりの試験の平均
試された手と結果
数字の物差しは研究ごとに違います.納付率の差,払った人の割合の変化,反応した割合などです.研究どうしで数字の大小を比べることはできません.
送ること自体
+25ポイント
期限後に督促状を送る
オーストラリア国税庁 小規模事業者の滞納税 4,787件
7週間後に払っていた割合の,送らない群との差.
出典1
0.8% → 7.7%
未登録の疑いがある世帯に手紙を送る
オーストリアの受信料 約5万世帯
50日以内に払い始めた割合.左が送らない群.
出典2
1%未満 → 3%超
半年以上未払いの人に催告の手紙を送る
オーストラリア首都特別地域 交通と駐車の反則金 約1万件
6週間で一部または全額を払った割合.手紙1ドルあたりの回収額は3.77ドル.
出典7
文面に足す
+5.1ポイント
「10人に9人は期限までに払っています.あなたはまだ払っていない,ごく少数の側です」という趣旨の一文
英国の税務当局 所得税の滞納者 約10万人
通常の督促状との差.
出典3
3.9%
「この金額には利息がかかっています」という一文
英国の税務当局 所得税の滞納者 約12万人
数字は原文の表記のまま.
出典3
47% → 約66%
文面を簡素にし,延滞したときの負担を書く
スロバキアの市 ごみ収集料金の滞納者 約2,100人
年末までに払った割合.左が従来の通知.姓の順で群を分けた準実験.
出典4
31.8% → 36.9%
罰則の額と,裁判でほぼ勝っている事実の両方を書く
チェコの受信料 1通目に反応しなかった約9,100世帯
反応した割合.どちらか片方だけでは差がなかった.
出典5
+7.9ポイント
簡素化,延滞の負担,「3人に2人は期限までに払っています」を全部入れる
ベルギーの市 駐車違反の反則金 約2,700人
期限内の納付.比較を多く行ったことを補正すると,確かとは言えなくなる.
出典6
+9.0ポイント
滞納が続くと差押えになりうると書いた督促状
米国フィラデルフィア市 固定資産税の滞納者 19,039人
1か月以内に一度でも払った割合の,送らない群(30.5%)との差.単純な督促状では+3.7.1通約1ドルで,平均36.27ドルの増収.
出典13
+2.0ポイント
反則金の通知に,期限と延滞したときの負担の両方を書いた短い送り状を添える
チェコの市 スピード違反の反則金 78,882件
15日以内に全額を払った割合の差(送り状なしは77.9%).100日後も差が残った.この市は2020年6月から全件に添えている.
出典12
19% → 36%
2回目の通知を作り直す(簡素にし,「Act Now」の印を押す)
米国ペンシルベニア州 中小事業者の滞納税 3,130社
15日以内に反応した割合.左は2回目の通知なし.同じ通知をそのまま再送した群は26%.
出典14
−2.58ポイント
強制執行になりうると書いたチラシを,請求書に添える
スロバキアの町 ごみ収集料金 約5,000世帯
払った割合が,チラシなしより下がった(逆効果).人の少ない地区では−11.22ポイント.姓の順で群を分けた試験で,実施はコロナ禍の2021年.
出典11
送り方を変える
早いほど早い
督促状を期限の10日後,17日後,25日後に送り分ける
オーストラリア国税庁 小規模事業者の滞納税
早く送ると払われるのが早くなる.7週間後に払っていた割合は,どの時期でも変わらなかった.
出典1
+約5ポイント
同じ SMS を1回だけでなく,週1回4週送る
上海市の1区 固定資産税の滞納者 約1,700人
1回だけの群との差.週2回にしても,それ以上の上積みははっきりしない.
出典8
効かなかった例,効きにくかった例
- 「公平さ」や「道徳」に訴える文は,オーストリアの受信料では効果が見られませんでした.フィラデルフィア市でも,「10人に9人は払っています」「税は公共サービスに使われます」「市民の義務です」の手紙は,単純な督促状と差がありませんでした.
- スロバキアの別の町では,強制執行を予告したチラシで納付がかえって下がりました.著者は,脅されることへの反発や,公的機関への信頼の低さを理由に挙げています.罰則の書き方は,地域の事情で逆に働くことがあります.
- チェコの反則金では,期限だけを強調した送り状は効きませんでした.期限はもともと多くの人が知っていたためと,著者は説明しています.
- ペンシルベニア州の例では,封筒に手書きで一言添えても,上積みはありませんでした.
- 「多くの人は払っています」という一文は,スロバキアの市(出典4)では足しても上積みがありませんでした.オーストラリアの反則金では,罰則を書いた手紙より効きませんでした.
- ベルギーの例では,文面を簡素にしただけの通知も,延滞の負担を足しただけの通知も,はっきりした差は出ませんでした.
- 長く滞納している人には効きにくい結果が並んでいます.スロバキアでは滞納の履歴が長い人に効果が見られず,上海では過去2年とも払っていない人が例外として効果がはっきりしませんでした.オーストラリアの反則金では,「多くの人は払っています」の手紙が長期の滞納者に効いていません.
- オーストラリア国税庁の例では,7,500豪ドル以上の滞納には督促状が効いていません.
- 効果は送ってから数週間に集中し,その後は差が縮みます.
日本の近い例
横浜市戸塚区の固定資産税で,口座振替の案内を3通りに分けて送った試験です.ナッジ版は,チラシを簡素にし,延滞金のリスクを強調し,申込に必要な番号を同封しました.
17.2%ナッジ版のチラシ
8.4%通常のチラシ
1.1%送らない
翌年度に要素を分けると,チラシと番号の同封がそれぞれ約3ポイント効き,封筒のデザインには効果が見られませんでした.測ったのは口座振替の申込率です.期限内の納付が増えたかは,報告書でも今後の課題とされています.
出典9
読むときの注意
- ほとんどが海外の研究です.日本の督促状の文面を無作為に変えて納付率を測り,報告書を全文公開している例は,今回の調べでは見つかりませんでした.
- 効いた文面には,罰則や手続きについて正しい事実を書いたものが多く含まれます.事実でない脅しは使えません.法令で決まった記載事項は変えず,足すのは一文や見せ方の工夫,という前提です.法令上の判断は,各自治体でご確認ください.
- 強い文面が受け取った人の不安や行政への印象にどう影響するかは,ほとんど測られていません.
自分の所で試すなら
- 試す相手を決めます.はじめは「1回だけ期限を過ぎた人」が向いています.効果が出やすく,件数も多いからです.
- 発送する分を2つ以上に分けます.宛名の番号の末尾など,文面と関係のない基準で分け,同じ日に送ります.送る日がずれると比べられません.
- 何を測るかを先に決めます.たとえば「発送から30日以内に全額を払った割合」です.
- 人数の目安です.払う割合が30%から33%に上がる程度の差を見分けるには,1つの群に約3,800人が必要です(有意水準5%,検出力80%で試算).足りないときは,2年度分を合わせるなどの工夫をします.
- 結果は「効かなかった」場合も記録に残します.次の文面を選ぶ材料になります.
出典
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- Chadimová, K. (2024). Deterrence strength in TV fee enforcement: Field evidence from the Czech Republic. Journal of Behavioral and Experimental Economics, 112, 102245. doi.org/10.1016/j.socec.2024.102245
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- Leets, L. L., Sprenger, A. M., Hartman, R. O., Kohn, N. W., Simon Thomas, J., Vu, C. T., Aguirre, S., & Wijesinghe, S. (2020). Effectiveness of nudges on small business tax compliance behavior. Journal of Behavioral Public Administration, 3(2), 1-12. doi.org/10.30636/jbpa.32.141